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「不正」の発見と防止その2
2013/01/10
「近代中小企業」2013/1月号に「中小企業の不正調査」と題して執筆しました。
今回も引き続き不正の発見とその防止について述べます。「給与の不正」「経費精算」の不正の発見と、その防止から解説し、「面接調査」の効用に発展させていきます。
給与の不正の防止
●給与の不正の発見
幽霊社員の不正は、給与の支給が現金払いであるときに多くみられます。また、社会保険料等の控除がされない従業員は、控除されない理由が明確であるかで発見することが可能となります。虚偽の時間外労働については、上司が従業員のタイムカードに責任を持 ち、タイムカードと給与支払簿を直接照合して従業員の労働時間を承認することは、時間外労働の悪用を減らすことに役立ちます。ほぼ同時刻に2人が終業したり、同じペアが何度も残業したりするときは、調査をする必要があります。同僚や上司への調査から虚 偽の勤務時間の悪用が発見されることもあります。
●給与の不正の防止
給与の不正対策は次のことを整備し、防止に努めることが有効です。
- 人事記録は給与台帳や勤務時間集計と別個に記録されているか
- 給与計算係は総勘定元帳にアクセスできる人と独立しているか
- 新人社員の身元照会や素性調査は行われているか
- 勤怠管理が行われ検証されているか
- 給与控除と源泉徴収の免除のための適切な用紙が、従業員によって作成され承認されているか
- 給与台帳は定期的に検査されているか
- タイムカードが使われているなら、タイムカードは、①担当の上司がいるところで従業員が打刻しているか、②給与算定期間の締切日間際になっても上司の承認のない時間外労働が残っていないか
- 月次給与は、支払いが行われる
前に、
①従業員の名前、②勤務時間、③賃金率、④控除、等が
検証され承認されているか
- 従業員の給与は本人銀行口座宛てに振り込まれているか
- 賃金支払簿と総勘定元帳とは月次で照合されているか
- 所得税、住民税、社会保険料の納付額と総勘定元帳とは照合されているか
- 所得税、住民税、社会保険料の納付に関して、適格な納付書で納付期日に納付する手続きがとられているか
- 実際の給与総額と人件費予算とは比較検証されているか、差異は定期的に分析されているか
経費精算の不正の発見
経費積算の不正を発見するには、2つの基本的なやり方があります。
1つ目の方法は「経費勘定の検査と分析」、2つ目の方法は「経費報告書の検査」です。
●経費勘定の検査と分析
一般に、経費勘定の検査方法には、年次別比較および予算額との比較があります。年次別比較では、今期の収支を過年度の同時期の収支と比較します。この検査を行う場合、その会社の事業の変化を考慮する必要があります。予算は、平たくいえば業務を遂行する のに必要な金と時間の見積もりのことです。予算は、過去の実績に基づいて、現在および将来の経営状況を考慮したうえで決まります。それゆえ、実際の経費と予算経費を比較する場合は、過大な経費や不正確な予算見積もりを見極めることが重要となります。
●経費報告書の検査
最も不正が見つかる方法は、従業員の経費報告書を詳細に検査することです。領収書等の証憑書類と従業員の行動予定表を入手することが必要です。抜き打ちや無作為抽出でその領収書と支払先とを電話確認などで照合します。また、複写式ではない領収書や領収 書に番号の付されていないものに限定して検査を行うことも有効です。
●経費精算の不正の防止
詳細な経費報告書を作成させることに尽きます。その後の検査にも役立ちますので、次の内容が含まれた報告書であるべきです。
・領収書またはそれに類する証憑書類であり、支払先でしか発行されないもの
・具体的な業務目的を含めた、経費に関する説明記述
・経費が発生した時期
・経費を支出した場所
・常識的な金額
詳細な報告書を提出させても、それらが検査されないならば不充分です。経費報告書が定期的に検査されるという明確な方針を示し、適切で詳細な検査を実施することで、従業員に対する費用精算請求の抑止に役立つことになります。
面接調査の効用
不正調査の手法として前回述べた帳簿からの発見と同様、調査対象者や関係者に対する面接も大きな比重を占めます。ただし、面接から得られる供述は、嘘、思い込み、記憶違い等による誤りが存在する可能性があり、面接内容を持ってのみ証拠とするには価値が低いといえます。
しかし、発生した不正の核心に迫る上で共謀状況、共謀内容等事実関係の解明には供述に頼らざるを得ないのも事実です。また、ちょっとした不正行為と見られていたものが、その後の供述をもって大規模な組織的不正行為であったことが解明されるケースもあり ます。このように面接における供述は重要な意味をもつことが多いのです。したがって、不正調査における事実解明が適切かつ迅速に進むか否かは、この面接の成果にかかっているのです
●質問の種類
さて、面談相手の調査対象者や関係者に対していくら核心に迫ろうと思っても、長時間面談で拘束することは許されるものではありません。聴取内容も次の4つの質問に大別され、それで充分なのです。
・会計処理方法に関する質問
・証憑書類に関する質問
・組織体制や会社内に関する質問
・取引先に関する質問
したがって、事実としての情報を集めるために効率よく行われなければならない一方で、聴取者は供述内容に事実や行動の矛盾点があるのか注意しなければなりません。質問の種類を工夫しながら使い分けていくのが上手いやり方です。質問の種類を次に見ていき ましょう。
「開かれた質問」開かれた質問とは「はい」「いいえ」で答えることが困難な質問を指します。回答に独自の反応を求めるものであり、答が一つとは限らない質問です。面接調査において情報を収集する段階では、聴取者は基本的に開かれた質問をするよう努める
べきです。
聴取者の質問例
・あなたの仕事についてお話ください
・あなたの部署の役割についてお話ください
・その作業手順について教えてください
「閉ざされた質問」
開かれた質問と異なり、一つの正確な答が求められる質問のことをいいます。通常は「はい」「いいえ」で答えられます。この質問の特性は、金額・分量、日付・時間といった特定的な事項を扱います。面談相手の調査対象者や関係者が端的に答えられる一方で、
聴取者の言葉数のほうが多くなり、威圧的な面談になる恐れもあります。
聴取者の質問例
・あなたはその役割を担っていましたか?
・それが起きたのは何曜日ですか?
「誘導質問」
誘導質問とは、聴取者の期待する答を面接相手に示唆、暗示するような質問のことをいいます。
聴取者の質問例
・最初の発生は3ヶ月前ですか?
・Aさんの不審な行為を目にしたことがあるのではないですか?
「態度質問」
面接を始めるにあたって、聴取者が親近的な雰囲気を作りたいのであれば、予め回答が「はい」であることが分かっている質問をするのが望ましく、この種の質問を用いることが効果的です。
聴取者の質問例
・○○さん、調子はいかがですか?
・野球はお好きですか?
●質問の運び方
面接調査での質問の仕方のルールは、質問は一般的なものから始まり、そして具体的なものへと移行させます。言い換えると、「既に確認されている情報から、未確認の部分へ移行する」ということです。一般的なものから具体的なものへと移行していく質問を効
果的に行うには、まず既知の情報を列挙し、次にそれと理論的に関連した質問を行います。特に会計や不正行為に関係した事柄については数字が重要性を持つことになります。しかし、特定の金額を思い出すことが出来ない調査対象者や関係者もいるはずです。こ
のような場合、聴取者は既知の金額と未知の金額とを比較することよって、面接相手の記憶を呼び起こす方法も取られます。
聴取者の質問例
・関係している金額は、昨年の金額よりも大きかったですか?話をしたり情報を提供したりすることに同意を促すためには、このようないい回しもあります。
聴取者の質問例
・あなたはこの件には関係ないのだから、あなたがこの件について話すことに問題はないと確信します話が不必要に主題からそれることのないよう、聴取者は面接の舵取りを要求されます。しかし、それに過敏になることは必要ありません。聴取者は面接相手の話
を遮ることは最小限にし、理由なく話を止めてはなりません。面接相手が調査されている事と部分的にしか関係していないことを話している時であっても、それが重要なヒントを与えてくれることもあるからです。
●情報収集のための質問手法
情報収集において面接調査を効果的に行う上で有効なポイントです。
- 面接相手を防御的にし、敵意を抱かせる可能性の少ない質問から始める
- 時間的な経過や体系に沿って、事実を確認していくように質問をしていく
- 一つずつ質問をして回答と質問のキャッチボールができること
- 直接的で明確な質問をして、一般的で意地の悪い鋭い質問は避ける
- 面接相手に回答するための充分な時間を与え、急がせないこと
- 面接相手が思い出すことを手助けするようにすべきであるが、誘導質問になることは避ける
- 望ましい結果を得るために、必要であれば質問を繰り返すこと
- 聴取者が面接相手の回答を理解していることを示すこと
- 面接相手に回答を修正させる機会を与えること
- 推論と事実を区別すること
●ウソをついていることの手掛かり
人は見返りを得るため、もしくは難を逃れるために嘘をつくといわれています。ほとんどの人々にとっては、嘘をつくことはストレスを生じさせます。例え嘘をつく練習を重ねた人の体であっても、手掛かりとなる言語的および非言語的な方法によって、このスト
レスを発散しようとするのです(図1)。
図1 ウソをついていることの手掛かり(言語的・非言語的な手掛かり)
言語的な手掛かり
- 話し方の変化:早く喋るかと思えば遅く喋ったりする、大きな声で喋るかと思えば途端に小声になったりと声の調子に変化が見られます。騙そうとしている時に咳や咳払いをする傾向があります。
- 質問の復唱:嘘をつこうとする人は、しばしば何をいうべきかを考える時間を得るため、聴取者の質問を繰り返すことがあります。また、「何と言ったか繰り返してくれますか?」や、それに似たようなことを要求します。
- 面接調査に対する不満:面接調査が行われる物理的な環境について不満を述べたりします。「ここでは話す声が外に漏れてしまう」などです。あとどれくらい面接調査に時間がかかるのかを聞いてきたりすることもあります。
- 選択的記憶:重要ではない出来事については良く覚えているものの、重要な出来事の話になると「思い出せない」と述べたりします。
- いい訳をする:都合の悪いことについてしばしばいい訳をします。「その日熱があって頭がボーっとしていていました」など。
- 誓い:強調された言葉を用いることによって、嘘を信じさせようとします。「神に誓って」「正直にいうと」「素直にいうと」「本当のことをいえば」などが頻繁に用いられます。
- 他者による権威付け:聴取者に「私の妻に確認してください」「私の父と話してみてください」など、嘘の供述に信頼性を持たせるために用いられます。
- 質問を伴う回答:嘘をついている人は質問を伴った回答をすることがあります。「なぜ私がそのようなことをするのですか」などです。
- 極端な敬意:そこまでする必要がないのに、必要以上の敬意を聴取者に払ったり、友好的に振舞ったりすることをいいます。
- 強く否定しない:やっていないことに対して非難される時、普通の人は怒り猛烈に否定してやっきになります。一方、嘘をついている人は非難を繰り替えされるうちに否定の仕方が弱まり、ロ数も減っていきます。
- 否定が不明瞭:普通の人が単純明快に「いいえ」と回答すること対し、「記憶の限りでは」「思い出すことが出来る範囲では」などの前置きが用いられます。
- 負の行為を指す言葉の回避:嘘をついている人は負の行為を指す言葉を避けることがあります。「盗む」「嘘」「犯罪」などです。代わりにソフトないい回しや指示代名詞でごまかします。「借りる」「あれ」「それ」などです。
- 疑わしき他者の話題に触れることへの拒絶:嘘をついている人は聴取者によってどんな圧力を掛けられたとしても、不正行為を行った仲間について語ることは少ないのです。これは、自身に類が及ぶことを避けようとする傾向だからです。
- 寛大な態度:嘘をついている人は悪事について寛大です。他者が犯した社内の犯罪に対して、「止むにやまれず犯した」「多分、トラブルに巻き込まれただけなのでしよう、再度チャンスを与えてあげるべきだと思います」など、庇う傾向が見られます。
- 無関心を装う:普通の人は、疑われていることに非常に関心を持つもので、聴取者の質問には真剣に対応します。その一方で、嘘をついている人はしばしば無関心なように見せることに努めます。
非言語的な手掛かり
- 全身の動き:繊細な質問や感情的な質問がまさにされようとする中で、嘘をついている人は、聴取者と距離を取るように努めます。
- 身体的反応:身体的反応は恐怖に対する体の無意識な反応です。脈拍の上昇、浅いまたはぎこちない呼吸、必要以上の発汗などに見られます。
- ロを手で覆う仕草:嘘をつこうとする際、指や手で口を覆う仕草をすることがあります。嘘をつく人は幼少期から嘘をつくことが多く、こういった反応は幼少時代に遡るものなのです。子供が嘘をつく時に口を手で覆うような仕草です。それは潜在意識的に供述を隠そうとする現れです。
- もてあそぶ仕草:もてあそぶ仕草とは、服から糸くずを取ったり、鉛筆などで遊んだりといった仕草のことです。こういった仕草は、嘘をついているという不安を取り除くため、無意識で行われています
- 逃げ腰の姿勢:面接調査の最中,「逃げ腰の姿勢」を取ることがあります。頭や体は聴取者を向いているものの、足や体の下位部分は無意識に聴取者から逃げようとしている姿勢を指します。
- 腕を組む:体の中心部分で腕を組むことは、不快な質問や難しい質問に対する古くからの防御的な反応です。こういった腕を組む仕草の多くは、嘘をつく際に見られるものです。