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「不正」の発見と防止その1

2012/12/10

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「近代中小企業」4月号に「中小企業の不正調査」と題して執筆しました。

第2~4回までの3回にわたり、「不正」の種類を述べました。
今回からは、その発見と防止について解説します。

財務諸表の不正の発見

比較財務諸表は、当期と過去の会計期間に関する情報を提供しています。これらの数値を比率や百分率に変換すれば、財務諸表の利用者は、年度別の総額の変化のみならず、数値の互いの関連性に基づいた分析が可能となります。不正の発見と調査において、金額の関係と変化の理由を見極めるのは重要なのです。財務諸表分析を大きく分けますと次の3つになります。

①垂直分析
「垂直分析」は、損益計算書、貸借対照表、またはキャッシュフロー計算書の項目間の関係について、構成要素項目をパーセントで表示して分析する手法です。この手法はよく百分率財務諸表と呼ばれます。損益計算書の垂直分析では純売上が100%に設定され、一方の貸借対照表では、資産合計の資産欄が100%、負債と貸本合計もまた100%で表示されます。その他のすべての項目は、これらの数値との百分率で表示されます。

②水平分析
「水平分析」は、財務諸表上の個別項目パーセンテージの変化を、ある年度と別の年度との間で比較分析する手法です。分析の初年度が基準となり、続く年度における変化は基準年度とのパーセンテージで表示されます。

③比率分析
「比率分析」とは、財務諸表上の2つの異なる金額の関係を調べる手法です。関係と対比がこの分析のポイントです。この比率分析は、財務諸表のデータを利用した評価を可能にしています。伝統的に財務諸表比率は、企業の業界平均値との対比でよく利用されます。財務比率が前年度と今年度、または数年間にわたり際立った変化を示すとき、当然何か問題が発生していることが多いのです。このようなケースでは、会計帳票を詳細にかつ適切に調査、検査するべきなのです。流動比率を例に取りますと、その深刻な重大な減少は、流動負債の増加によるもの資産の減少によるもの双方とも、不正隠蔽するために利用されるのです。

スキミング行為の探知

●売上勘定での探知
売上勘定に対する垂直分析および水平分析のような基本的な分析手法が、スキミング行為の大まかな探知に利用できます。この方法は、勘定における変化を分析し、売上金の過小計上などのスキミング行為が行われているかどうか可能性を示唆するものです。比率分析もまた、スキミングの探知に手掛かりを与えてくれます。また、綴密な在庫管理手法は、売上の未計上に由来する在庫減耗の探知にも用いられます。減耗を探知する方法には、実地棚卸のみならず統計的な標本調査、傾向分析、受領報告と在庫記録の精査、材料出庫伝票と発送伝票の検証があります。

●仕訳の精査
仕訳帳の現金勘定および棚卸資廣勘定に対する全仕訳を精査し、分析することで、スキミングを探知できる場合があります。次のような仕訳が発生したならば、さらに精査することをお勧めします。
・売上金の未計上や過小計上を隠蔽するための、在庫勘定の虚偽の貸方記入
・その他、商品の紛失、盗難、陳腐化などを理由とした在庫の抹消
・売掛金勘定の抹消
・現金勘定への変則的な仕訳

●売上金あるいは
売掛金ラッピングの探知通常、ラッピングは顧客の支払い日と、顧客の勘定に記入がなされた日を比較することで探知できます。これには、銀行預金通帳や当座勘定明細のような原始帳票の精査が必要です。もし不符号があれば、さらに調査しなければなりません。顧客の勘定の確認は、ラッピングを探知するもう一つの方法です。請求書で勘定の確認をしたうえで、保管されている売上票や納品書控えなどの証憑書類と勘定を確認します。不正の可能性がある場含は、特定の請求に対して顧客が支払いに用いた手段が何であるか(銀行振込・小切手など)を調査し、場合によっては顧客に協力を依頼します。

スキミング行為の防止策

●全般的な管理
売上金の記入と総勘定元帳へのアクセスを管理します。経営サイドから方針と手続を文書化した上で、従業員に伝えなければなりません。この管理手続には、一般的に次の項目を含むのが望ましいとされます。
・誰が元帳に記帳するかに関して、職務の適切な分掌とアクセス制限がなされること
・取引は、数量、日付、元帳勘定に関して適正に記録されること・会計システムへのアクセスに関してセキュリティ面での適切な策が講じられていること

●スキミングの管理
スキミング防止には、その受領過程を適切に管理することが必要です。次のチェック項目にあてはまらない項目が多ければ、スキミングを誘発する懸念があります。

  • 郵便物の開封は、経理担当従業員から独立した者が行っているか
  • 未開封の郵便物を、会計記録にアクセスできる従業員に渡すことを禁じているか
  • 郵便物を開封する従業員は、手形、小切手の受領記録ならびにその一覧表を作成しているか
  • 金庫を使っているか
  • 現金の払い戻しには許可が必要か
  • 領収書に番号が予め打たれているか
  • 売掛金勘定の記帳係に、現金出納帳へのアクセスや顧客から届いた約束手形、小切手へのアクセスを禁じているか
  • 出納係は、売掛金勘定の記録、銀行取引明細書、顧客別明細書へのアクセスが禁じられているか
  • 金銭を取り扱う場所は、安全な場所か
  • 総勘定元帳への転記を行う従業員は、現金の受領や売掛金勘定の業務から独立しているか
現金不正の探知

払い戻し、返品、値引きと棚卸貫産の実際の流れを精査することで、不正が発覚することがあります。払い戻しがあれば、例えそれが損傷した商品であっても棚卸資産勘定へ記帳しなければなりません。同様に、返品も棚卸資産勘定に相応の記帳が生じます。
現金の不正支出は、現金勘定に記帳されたすべての仕訳を検査、分析することで見つかることがあります(検査、分析を定期的に行うことを勧めます)。現金に対する独立した仕訳の必要性はほとんどありません。従って、現金勘定への直接の仕訳はすべて疑わしいと見るべきで、証憑書類や裏付けを精査すべきです。よくある手口は、現金勘定を貸方とし、これに対応して売上相殺や貸例損失などの勘定を借方とするものです。抜き打ちで行う現金実査と業務の監査は、不正防止策として有効です。前触れもなく経営陣による現金実査実施が、従業員に周知されていることが重要です。この抜き打ちの実査は、現金の他に小切手、約束手形の現物も実査されなければなりません。

●架空返金または虚偽の取消
架空返金または売上取消は、しばしばレシートとともに提出された書類を綿密に精査することで発見できます。発見方法の一つは、従業員が行った返金や取消の比率分析です。単独の従業員もしくは従業員グループが、他の従業員やグループに比べ返金や取消の発生率が高ければ注意が必要です。「高い」従業員やグループが返金、取消で提出する書類を綿密に精査します。
レジスターの周辺に、周知徹底を求める標示を掲示することにより、顧客もまた確認に協力するようになります。これは、従業員が正しく売上を計上し、顧客のレシートが虚偽の取り消しや返金に使用されることを防止する上で役立ちます。実際の在庫の流れに関して返金と返品の分析をすれば、不正の存在が明らかになることもあります。例えそれが破損品であろうと、返金によって在庫は増えるはずだからです。

●現金不正支出の兆候
次の兆候が見られますと、現金の不正支出が起きやすくなります。

  • 従業員の職務分掌が不適当で、レジスターの計算や照合がレジ係の従業員が担当している
  • 管理者ではなくレジ係が、返金や取消に必要なコントロールキーへのアクセス権を持っている
  • レジスター担当従業員が、自分の取引を取消す権限がある
  • レジスターでの返金が入念に検査されていない
  • 取消取引が適切に文書化されておらず、管理者に承認されていない
  • レジスターテープが紛失、あるいは明らかに改ざんされている
  • レジスターテープ上での一連の取引記録に、不自然な途切れがある
  • 在庫総数が不自然
  • 多数の少額返金や取消がある

●現金不正支出の予防
現金不正支出の予防には、次の項目が有効です。

  • レジスター担当従業員の職務分掌およびその管理者の職務分掌の徹底
  • レジの書類と現金が、完全な形で適切な者に届けられなければならない
  • レジへのアクセスの厳重な管理
  • 多数の少額返金は、いつ、だれが、どのような時に起きやすいのか分析する
  • 抜き打ちの現金実査を実施
  • レジスターのある場所近くに管理者が目を光らせる
  • 取消取引や返金取引の裏付けとなる書類を、適正さの観点で精査する
  • レジスターテープの連番や完全性請求書の不正の発見請求書の不正に対する危険信号は、次のことがなおざりになったときに多く発生します。
  • 購買部門があり、経理部、荷受部門、発送部門から独立しているか
  • 購買は、責任者による購買申請書への承認後にのみ行われているか
  • 購買は、すべて納入業者への注文書の送付によって行われているか
  • 注文書には、品目、数量、値段、支払条件、配送条件、日付などの詳細が明記されているか
  • 納入未済の注文書は一覧化され、定期的に点検されているか
  • 注文書の用紙には通番が付されており、番号の連統性が定期的に確認されているか
  • 承認された納入業者のリストを保持しているか
  • 商品は、競争入札によって購入されているか
  • 購入品の受領記録はすべて保存されているか
  • 荷受部門は、受取報告書を作成しているか
  • 商品受取時には、購買部門から独立した者が受領前に品目、数量、状態をチェックしているか
  • 受取報告書の写しは、経理部、購買部門に提出され、荷受部門に保存されているか
  • 包括的な購買注文に基づく納品は管理されているか
  • 注文の一部納入を適切に会計処理する手順は整っているか
  • 関連する負債勘定が記帳される前に、納入業者の請求書、受取報告書、注文書の照合はなされているか
  • 納入業者の請求書は、支払条件についてチェックされているか
  • 値引かれた理由が、購買部門で確認することが可能で経理部にその説明がなされているか
  • 責任ある従業員が、請求書の金額を転記する総勘定元帳の勘定を適切に管理しているか
  • 支払前に請求書を確実に処理し、二重払いを防ぐ体制が整っているか
  • 請求書の支払いは責任者によって承認されているか
  • 顧客へ直接配送される購買品については、その顧客へ即座に請求書が送られ、売掛勘定と買掛勘定に両建てで記帳されるようになっているか
  • 納入業者への返品記録は、業者の貸方メモと合致するか
  • 受取報告書、注文書、納入業者の請求書に不一致があるかどうかを定期的に点検しているか
  • 納入業者からの明細書は定期的に検証され、記帳された負債と照含されているか
  • 借方残高帳消しなどの買掛勘定の修正は、権限のある者の承認を必要としているか
  • 過剰な在庫購入が疑われる場合、すべての購入在庫が適切な場所で受け取られたことを確認しているか請求書不正の防止

不正購入を防止するのは、実は困難なのです。それは、販売担当者が営業活動の一環として酒席や贈答品で新しい顧客を獲得するように、納入業者の営業担当者が接遇するのは会社の購買部門の従業員なのです。
購買部門の従業員は、高い倫理観を持ち、特定の業者をひいきすることなく職務を果たさなければなりません。しかしながら誘惑にかられ、自己にとって最も利益となるような決断を下す輩もいるのが事実です。
おそらく、最も効果的な不正購入の防止法は、倫理的な教育研修でしょう。

●防止用チェックリスト
請求書不正の防止に役立つチェックリストを見ていきましょう。

  • 購入注文、請求書作成、支払いの承認手続きは規程化されている
  • 業者の買掛勘定リストは、見知らぬ業者や住所がないか定期的に検査する
  • 業者購入は、月次別と年次別の両方で異常な水準がないか検証する
  • 購入と在庫のバランスを比較して分析する
  • 二重請求や、注文番号をチェックする管理体制が機能している
  • 承認、購入、受取、出荷、会計の職務分掌が明確である・請求書の支払いは、伴う正式な証憑書類の完全性を定期的に確かめる
  • 受取報告書と出荷報告書は完全であるか、正確であるかを検証する
  • 在庫勘定への仕訳項目は細かく厳密に検査する。
  • 定期的に納入業者の適格性を検査する