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企業内における「不正」の種類その2
2012/10/20
「近代中小企業」2012/10月号に「中小企業の不正調査」と題して執筆しました。
第1回では「企業における「不正」とは何か」で、不正の定義。
第2回では「企業内における「不正」の種類」として、財務会計上の不正を見てきました。
今号でも引き続き、「不正」の種類として「現物の不正」を見ていきましょう。
現物の不正
前回、職業上の三大不正と呼んだ次のもの、
「汚職」
「資産の不正流用」
「不正な報告書」
このうち、圧倒的に多いのは資産の横領。つまり、「現物の不正」なのです。
現物の不正の手口は、直接対象となる現物(資産)に手を下すものと、間接的に現物(資産)取得する手口とに分かれます。分かり
易くいえば...
・直接対象となる現物(資産)に手を下すもの=現物(資産)の流入時に不正を働く
・間接的に現物(資産)取得する手口=虚偽の流出を作り出した結果、現物(資産)を手にするこのように理解ください。
直接対象となる現物(資産)の不正で一番多いものは、資金の横領です。なぜなら、ほとんどの会計仕訳の中心となるからです。銀行預金であれ、小口現金であれ、資金はさまざまなやり方で横領の対象となるのです。
不正の専門家的領域に少し入りますが、従業員が横領の事に及んだ時、帳簿に記録された後なのか帳簿に記録される前なのかで呼び名も変わります。本稿ではこれを分けて論じませんが、
・会計システムに記録されている資金を盗むことを「窃盗」と呼びます
・会計システムにまだ記録されていない資金を盗むことを「スキミング」と呼びます「窃盗」と「スキミング」この2つは、従業員の不正行為そのものは同じです。現状では、足の付きにくい後者の不正が多く、本稿では「スキミング」を中心に見ていくことにします。
資金のスキミング
スキミングは、資金を会計システムに記録される以前に抜き取ることです。会社の資金をスキミングする従業員は、売上金あるいは売掛金が会社の帳簿に記録される前に犯行に及ぶ、すなわち、会計システムの追跡を受けない手口でもあります。
未だ記録されていない資金が盗まれたので、会社はそもそも金銭の受領があったことに気付かないことも多く、したがって金銭が盗まれたことを見破るのが困難になる可能性があります。この点が不正行為者にとっての最大の利点であるのです。スキミングは、最もよくある形態のひとつです。それは、どんな会社も、金銭の領収、預け入れ、分配を行わなければならないからです。したがって、すべての会社は、潜在的に資金のスキミング被害に遭う危険に晒されていると言えるのです。
従業員が盗む状況は幾通りも考えられますが、入金された現金や小切手を盗むことや、いちいち使用記録を明記しない少額の有価証券を盗むことが一般的です。
売掛金のスキミング
一般に「売上金」のスキミングより「売掛金」のスキミングの方が、隠蔽が困難です。なぜなら、売掛金の支払いは予定されているからです。会社は顧客に支払義務があることを承知しており、支払期日に入金されることを待ち受けています。売掛金が記録されずスキミングされてしまうと、単純に考えて支払督促の対象となり顧客に知れることになるからです。
支払われた資金であるにも関わらず、まだ会社が受け取っていない資金について、不正行為者は何とか説明をつけなければなりません。では、売掛金のスキミングを隠蔽するために、不正行為者が使うテクニックを解説します。
●スキミング隠蔽テクニック①
「勘定の帳尻を無理やり合わせる」
売掛金のスキミングのうち最も危険なのは、一人の従業員が集金と記帳の両方を担当している場合です。不正行為者が受領プロセスの両端に関わっていれば、支払われた代金を盗んだとしても、隠蔽するために帳簿に手を加えることができるからです。
資金は決して預金されませんが、不正行為者は顧客の売掛金勘定を回収扱いにすることは充分考えられます。また、未収入金に計上してお茶を濁すか、現預金勘定を力技で過大計上して総額を無理やり合わせることによってその不均衡を隠蔽するのです。
●スキミング隠蔽テクニック②
「ラッピング」
顧客の支払金のラッピングは、売掛金のスキミングを隠蔽するのに、最もよく使われる手口です。ラッピングは、ある勘定を貸方に記入しながらも別の勘定から資金を盗むことをいいます。つまり、
「A社に払うためにB社から奪う」
ということです。
例を挙げるなら、ある会社にA社・B社・C社の三社の顧客があるとします。A社からの支払いを受け取ったとき、不正行為者はA社の売掛金勘定に回収を記録せずにそれを盗みます。
A社は、その支払いによって、支払うべき債務が無くなったと思うのが当然です。次の明細書がA社に送付される前に、その支払が記録されなければA社は支払ったお金が自分の勘定にあてられていないことを知り、ほぼ間違いなく苦情を申し出ることになるでしょう。これを回避するためには、不正行為者は何らかの手段を講じてその支払いが記帳されているように見せかけなければなりません。支払日の違うB社から支払いを受けると、不正行為者はこの金をA社の勘定に記録します。こうしてA社の勘定については、支払いが反映されたように見えます。しかし、B社の勘定は滞ってます。そこで次にC社から支払いを受けると、不正行為者はこれをB社の勘定にあてます。
このプロセスは、次の3つのうちのいずれかが起こるまで際限なく続けられます。
・この不正が発覚する
・勘定が原状回復される
・売掛金勘定の帳尻を合わせるために、何らかの隠蔽用勘定科目が設けられる
ラッピング行為は非常に複雑になりがちなので、不正行為者は支払金の受け取りの実態を細かく記録した裏帳簿を、ひと揃い手元に置いておくことが多いのです。不正行為者の職場を捜索しますと、実際の支払いと盗みを隠蔽するための横領の実態を記録した一連の資料が見つかります。自らの不法行為の記録を身近に置くというのは、奇妙に思えるかも知れませんが、多くの場合、横領する先数が増えるにつれてラッピングはかなり複雑化していくのです。裏帳簿は盗んだ金の動きや不正を隠蔽するために、貸方に記帳する必要のある勘定がどれかを不正行為者自身が辿っていく際に役立つからです。それを見つけることでラッピング行為が存在すること、そしてその全容を掴む大きな手掛かりになるのです。
●スキミング隠蔽テクニック③
「明細書を盗む」
売掛金をスキミングするとき、無理に収支を合わせようとはせず、標的とした顧客の勘定を滞留させておくことがあります。つまり、売掛金の支払いを受けておきながら、あたかもその入金が無かったかのごとく振る舞うのです。小切手による回収先が標的となるケースが多く、この方法によって会社の現金勘定に手を加える必要が無くなります。もちろん顧客の支払いが記録されなければ、最終的には売掛遅延となります。しかし、顧客に知られないようにすることで、隠蔽することができます。顧客からの支払いのスキミングを隠ぺいする方法のひとつに、顧客の勘定明細書や遅延通知書を不正行為者が横取りすることがあります。不正行為者は請求書作成システム内の顧客住所を改変し、従業員自身の管理できる場所に送付されるようにして明細書を盗んでいたケースや、従業員が郵送される前の明細書を自ら盗んでいたケースがあります。それらの行為の後、不正行為者は明細書の内容を改ざんして偽の明細書を作成します。偽造した明細書には、顧客の支払金が顧客の立場で適切に記されています。これにより、顧客は自分の勘定が正常に処理されていると信用し、不正の発覚が遠ざかります。
●スキミング隠蔽テクニック④
「帳簿の偽記帳」
不正行為者が、前述した「ラッピング」や「明細書を盗む」行為に及んでから将来の発覚を恐れ、被害者である顧客の勘定を本来の状態に戻さなくてはと考えるのは当然です。そこで会社の会計システムに偽の勘定項目を設け、顧客の勘定を正常化させる手口をここでは指します。
・経費勘定を借方とする手口
資金のスキミングを隠蔽するために、不正行為者が会社の帳簿に根拠のない仕訳を行うことがあります。
例えば、売掛金に支払いがなされた場合、現金勘定は借方、売掛金勘定は貸方とするのが適切な仕訳です。しかしながら不正行為者は、借方を現金勘定にせず経費勘定にするのがこの手口です。この仕訳によって入ってくる現金は記録されませんが、会社の帳簿の貸借は合うのです。さらに顧客の売掛金勘定は貸方計上されたので、不正発覚の発端となる売掛遅延を防げます。
・貸倒れ見込先または架空先の売掛金勘定を借方とする手口
スキミングした資金を隠蔽するために、不正行為者が回収不能として貸倒れ見込先の滞留した勘定に盗んだ金額を加算する手口と、架空の顧客勘定を設けてスキミングした売掛金を借方とする手口を指します。
不正行為者は、その勘定が結果的に回収不能となり貸倒損失として処理されるのを、ただ待てば良いのです。会社のコスト負担という形で決着し、不正が発覚するのを防ぎます。
・勘定残高を抹消する手口
「売上割引」や「売上値引」のような収益対照勘定を操作できる従業員は、スキミングの隠蔽にこの勘定科目を使うことがあります。これにより顧客の売掛金勘定は表面的には合うので、不正の発覚を防ぎます。
・在庫の操作をする手口
不正行為者が商品の売上金をスキミングする場合、商品の減耗損を活用することもあります。商品を扱っている以上、商品の減耗は避けて通れません。商品減耗は必ず一定割合は発生し、主に万引き、欠陥商品、損傷によるものなのです。不正行為者は、その特性を利用して商品減耗損を借方に計上し不正の発覚を防ぎます。
現金の不正支出
不正支出は、従業員が不正な目的のため会社の資金を支出することです。厄介なのは、表面上不正支出は正規の現金支出と何ら変わらないからです。不正行為者は、会社から通常の支出に見せかけた方法で金を盗んでいくのです。現金の不正支出は、「虚偽の返金」、「虚偽の取消」この2つが代表的です。これらの不正はおおよそ類似していますが、いくつかの差異も存在しています。では詳細を述べていきましょう。
●現金の不正支出①
「虚偽の返金」
顧客が何らかの理由で買った商品を返品すると、返金処埋がなされます。その処理をすることで、商品が在庫に戻されて購入代金が顧客に返金されます。その名の通り、返金は現金が支出されたことを示します。
・架空返金の手口
架空返金の不正では、不正行為者は実際に商品が返品されていなくても、顧客が商品を返品したかのように取引を処理します。この不正の取引から、二つのことが発生します。ひとつは「その従業員が虚偽の返品に相当する額の現金を詐取する」ことです。
もうひとつは「在庫にその返却商品が反映する」ことです。通常、在庫システムに借方計上されることになりますが、その取引は全くの架空であり実際には商品は返品されないことから、会社の在庫は過大計上となるのです。
・水増し返金の手口
この手口は、まったくの架空返金を行うのではなく、返金額を単に水増しして差額を着服することであります。
水増しの方法は、返金額を当初の売買額から難癖をつけて異様に下げる交渉をした後、当初の売買額と返金額の差額を詐取するケースが多く発生します。
●現金の不正支出②
「虚偽の取消」
虚偽の取消は、不正な支出を正規のものに見せるという点では返金の不正に似ています。この不正支出はレジスターのある店舗でよく発生します。
ある売買がレジ上で取り消される場合、通常はその取消取引を売場責任者が承認する作業が発生します。虚偽の取り消しを処理するために、不正行為者がまず必要とするものは、顧客のレシートなのです。従業員が虚偽の取消処理を企てる場合、一般的にはその売買の時点で顧客にレシートを渡しません。また、顧客はレシートが渡されなかったことに気づかないことも多いのです。不正行為者の手元にある顧客のレシートによって、売上の取消しをレジに打ち込み、あたかも顧客に返金されているかのように顧客が商品に支払った額と同額の金をレジから引き出します。顧客のレシートは、その取引の真実性を証明するために取消伝票に添付されるのです。
売上の取消が有効であるかどうかを確認すべきところではありますが、顧客の回流を優先させてしまい、多くの売場責任者は取消の真偽を確認することなく承認を下すのです。このような中で売上取消の不正に対して無防備となるのはある意味当然で、不正行為者が取消伝票の承認に軽んじる売場責任者を利用すべく取消処理に巻き込むのは、偶然ではありません。
この種の売場責任者は不正行為者の標的にされやすく、不正を成功させるには欠かせない存在であるのです。