ストラテジック・コンサルティング(Strategic Consulting)は、事業再生、資金調達などのビジネスリスクに特化したコンサルティングを実施しております。

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企業内における「不正」の種類その1

2012/09/05

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「近代中小企業」2012/9月号に「中小企業の不正調査」と題して執筆しました。

職業上の不正とは

広義における「不正」とは、組織または自己のため、他者を欺くことを目的とした意図的な作為または不作為であり、結果として損失を被る被害者が発生し、かつ組織または自己が利得を得ること。つまり、職業における不正は、企業の資産や財産を故意に悪用、または不正使用することを通じて、私腹を肥やすために自身の職業を利用することです。言い換えると、職業上の不正とは、「会社の従業員・管理職・役員または経営者が、その会社に損失を与えるような不正を働くこと」そして、以下が職業上の三大不正と言われます。

「汚 職」
「資産の不正流用」
「不正な報告書」

今号から、これらを「財務会計上の不正」、「現物の不正」の2回に分けて解説していきます。

財務会計上の不正

企業会計の教育的指導的役割を果たす企業会計原則は、会計監査をなす場合に、財務諸表の適正性を判断する際の判断基準となります。一般に公正妥当と認められる企業会計の基準を構成する一つの原則です。
企業会計原則は、企業会計の実務の中に慣習として発達したものの中から、一般に公正妥当と認められたところを要約したものでもあります。必ずしも法令によって強制されませんが、すべての企業がその会計を処理するにあたって従わなければならない基準です。企業会計原則の一般原則は、次の7つです。
・真実性の原則
・正規の簿記の原則
・資本取引、損益区分の原則
・明瞭性の原則
・継続性の原則
・安全性の原則
・単一性の原則
ここでその一つ一つを解説することは割愛させていただきますが要約すると、財務会計上の不正とは、財務諸表を見る者を欺くために、金額や明細を意図的に虚偽記載または脱漏させた会計処理を行うことを言います。企業会計原則を歪めて会社の財務内容を故意に不当な表示をすることでもあります。その結果、財務会計上の不正を典型的な形として表すのは、次の2つに集約されます。
・実際より過大表示された資産や収益
・実際より過小計上された負債や支出
どちらの形も純資産額や純財産の増加につながり、表面上安定した状態を示すことになります。新たな資金調達を考えている企業にとって安定した財務状況は願ってもないことです。このように、財務会計上の不正はそれ自体が結果となるよりも、結果に到達するための手段になることがほとんどなのです。ここでいう結果に導く手口は、次の4つに分類することができます。
・架空売上
・計上時期の操作
・不適切な資産評価
・負債や支出の隠ぺい

架空売上

架空または偽装の売上は、実際に販売されていない商品やサービスの売上計上です。架空の売上には虚偽、または実在しない顧客が含まれますが、ときには実在の顧客が利用される場合もあります。
例えば、実在の顧客にあてて発送されない架空の請求書を用意するのですが、実際には商品は届かず、サービスも提供されず、いつしかその売上そのものが取り消されてしまう売上。別のやり方では実在の顧客を使い、実際に販売したものより数量を多くして、請求書を故意に水増ししたり、改ざんしたりする売上を指します。

計上時期の操作

財務会計上の不正は、計上時期の操作、すなわち正しくない時期に収益または支出の計上がなされることです。これは、収益や支出をある時期から別の時期へ移し、利益を有利に増減させることを意図してのことです。

●早すぎる収益認識
通常は商行為がなされて収益が計上されますが、これは単なる見積もりや商談中にその収益を計上してしまうことを指します。年度末によく見られ、後日辻褄合わせがなされます。

●長期契約
長期契約は、収益認識に際して思惑をちりばめることができます。建設を例に取ると、長期契約では「工事完成基準」か「工事進行基準」を用います。工事完成基準は問題発生しません。しかし、工事進行基準では、プロジェクトの進捗度を計算するために収入と支出を認識します。この方式が特に操作されやすいのです。経営者は、早めに収益認識を行おうとする傾向があり、進捗度や諸々の見積費用を不正に操作してしまうのです。

●支出の誤った時期での計上
都合の良い時期に支出を計上するのは、予算や目標に合わせるため、もしくは経理を正確に管理していないことから生じます。一部の費用の支出が、実際に生じるとき以外の期間に先送りされるので、費用とそれに対応する売上が釣り合わなくなります。
例えば、ある商品の販売時点で収益認識はできますが、商品に費やされた費用やサービスは、次の期に持ち越されてしまいます。こうした取引が計上されると収益の増加のみとなり、その時は体裁がつきますが、次の会計期間になると一転して利益が同額下落してしまう要素をはらみます。

不適切な資産評価

「低価法」のルールのもとでは、資産の価値がその時点での市場価値を上回る場含、市場価値に合わせて評価減しなくてはなりません。会計は一般的に保守的要素が強く、現状の市場価値を反映するために資産価値を引き上げることは滅多にありません。
不正な資産評価のほとんどは、棚卸資産や売掛金の過大計上が絡んでいます。同様に固定資産でも、不正な操作がなされることがあります。

●在庫評価
棚卸資産は、棚卸時点で原価または市場価値で正しく表されるべき資産です。ところが、恣意的要素が色濃く反映される資産の一つでもあります。現在価値が取得原価を下回る場含、棚却資産は現在の価値に含めて評価減されなければなりません。
棚却資産の操作で主だったものは、物理的な在庫数の不正操作と原価算出に使用する単価の水増しがあります。また、実地棚卸を仕入れ先から出荷した商品にまで拡げて棚卸資産の水増しに利用したり、すでに販売済みとなっている出荷待ち商品や委託商品として預かっている商品までもが、実地棚卸に意図的に含まれて操作されることもあります。
監査人が立ち会うケースで悪質なのは、全く架空の無価値の商品をこしらえて倉庫に保管したり、幾日か分けて監査人が立ち会うような場合、倉庫間で商品を移動させて在庫を二重に数えるよう仕向けるなどの行為が挙げられます。

●売掛金
売掛金は、売上や棚卸資産と同様のやり方で操作しやすく、財務会計上の不正に多く利用されます。売掛金関連の二大不正は、「架空の売掛金計上」と「不良債権化した売掛金を償却しないこと」です。架空の売掛金は通常、先ほど述べた架空の売上から生じます。本来売掛金は、正味実現可能な価値で計上されるべきものなのです。

「架空の売掛金」
架空の売掛金は、経営難に陥っている会社でよく見られます。妥当な期間内に回収できる訳がないので、当然、これらの不正は期末付近に多くなります。架空の売掛金の隠ぺい工作には、実在しない顧客や共犯者が利用されることが多く、事前に周到な準備がなされるケースがよくあります。

「貸倒償却の漏れ」
通常、回収不可能とされる売掛金は損失として処理することになっています。利益計上に苦心している会社は、マイナスの影響を及ぼすこれらの損失の処理について先送りすることで利益を確保する行動に出ます。

●固定資産
固定資産はさまざまな方法でねつ造されやすく、異なる手口を使って不正操作されます。よくある不正には、架空資産の計上、資産価値の不当表示などがあります。

「架空資産の計上」
財務会計上の不正で固定資産勘定が利用されるのは、架空資産の計上があります。資産のねつ造は会社の貸借対照表上の資産総額に影響を与えます。よく利用される相手方勘定は、資本勘定です。会社の固定資産は複数の場所に点在していることも多く、この不正は時として見過ごされてしまいます。最も一般的な架空資産ねつ造の手口の一つは、架空の文書を偽造することです。他には、設備が所有物ではなくリース物件であるにも関わらず、その事実を隠して固定資産に計上することです。固定費産の総額が計算上合わなければ、虚偽の固定費産が発見される場合があります。

「資産価値の不当表示」
固定資産は、取得価格で記載されなければなりません。土地などは、その後価値の上昇を招くこともありますが、上昇した価値をそのまま会社の財務諸表に反映させるべきではないのです。また、決められた償却を施さない償却不足の資産は、財務会計上の総資産額に影響を与えます。事実上の水増し評価であり、固定資産の虚偽評価となります。このような資産価値の不当表示は、しばしば他の不正と連携して進められることが多々あります。

負債や費用の隠ぺい
負債や費用の過小計上は、企業がより高い利益率を見せかけるために行う、財務諸表操作の手口の一つです。費用、または負債が実額よりも少なく計上されることによって、税引前利益が増加します。この財務会計上の不正手段は、損益計算書に多大な影響を与えます。多くの売上取引をねつ造するよりも、はるかに実行が簡単な不正なのです。さらに取引を簿外にすれば監査の追求が困難となり、顕在する不適切な取引記録よりも不正を行う者にとっては好都合となります。
負債や費用を隠ぺいする一般的な手段は、次の二つです。

●負債や費用の脱漏
負債や費用の隠ぺいで最も簡単でよく用いられる手口は、帳簿に記帳しないことです。請求書は破棄されるか、別の請求書に差し替えられます。会計システムには入力されず、報告上の利益は破棄された請求書金額と同額分増加します。小売業界では、販売業者への払い戻しのために借方の伝票が切られることがあります。リベートや値引きを処理すると思われるかも知れませんが、時には単に利益の計上のためだけのこともあります。次の会計期間に是正される場合もありますが、いずれにしましても当期の財務諸表に不正行為を働くことには変わりありません。

●費用の資産計上
資産計上された費用科目はすぐに支出されるのではなく、何年もかけて徐々に償却されます。したがいまして費用の資産計上は、利益や資産を増やす有効な手口となっています。一方で、この手口は販管費の減少を伴います。売上総利益はまずまずなのに、営業利益が出来過ぎの感があれば疑ってみるべきでしょう。

不正の兆候

財務諸表の不正には、一般的に関わる不正の兆候も多いのです。図1に示したケースは、会社がこのような兆候を示していれば、不正の起きやすい環境を自らが作り出しているといえます。財務会計上の不正の防止財務会計上の不正を防止するには、不正の実行を思いとどまらせることが必要です。会社に倫理的気風を根付かせるのは経営陣の責任です。不正を生じさせる次の二要因を減らすことが、財務会計上の不正防止に大いに役立ちます。

●不正を犯す機会を滅らす

  • 正確で完全な会計記録を保持する。
  • 在庫品、現金、その他の貴重な物品など、会社資産を安全に管理するセキュリティ・システムを構築する。
  • 従業員の間で重要な職務を分掌する。
  • 新しい従業員への身元確認など、正確な個人記録の維持に努める。
  • グループ内で監督および指導の関係をはっきりさせ、経理手続の実施を確実にする。

●不正の正当化を減らす

  • 達成不可能な財務会計上の目標は設定しない。
  • 管理職は、会計の分野において誠実さを奨励して手本を示す。
  • 経営陣は絶えず従業員全員の目を意識し、会社内で不誠実な環境が醸成されるのを防ぐ。
  • 正しい行為と不正行為とを会社の方針において定義する。
  • 例外のない明確で、均一な経理手続を確立する。経理手続上のどんなあいまいな部分に関しても明確にする。
  • 規則を破った場合の代償と、違反者への処罰を明確にする。