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非協力的な調査対象者への対処方法

2013/02/01

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「近代中小企業」2013/2月号に「中小企業の不正調査」と題して執筆しました。

前号までの、6回の連載において中小企業の不正調査について解説をしてきました。最終回では、非協力的な調査対象者への対処方法を解説した後に、事例研究として経済事件を1つ取り上げ、その詳細を考察して本連載を終了することにします。
非協力的な者への対処
調査対象者が要望や質問を拒否する可能性は常にあります。調査内容が調査対象者にとって不快であればあるほど、面接調査は拒絶される傾向にあります。聴取者が直面すると予想される主な抵抗の例を以下に記しました。これらの克服方法を見ていきましょう

●「忙しい」
「忙しい」は無関心、自我の脅威、関わりを持ちたくない人と話したくないなど、もっともらしい言い訳として用いられます。こういった状況は、聴取者が次のことを強調することによって対応することが出来ます。
・面接調査は短い時間で終わる
・聴取者が既にここに来ている
・この件は非常に重要である
・面接調査は難しいものではない
・聴取者は助けを必要としている

●「何も知らない」
聴取者が面接調査の目的を述べると、直ぐにこういった回答に遭遇することがあります。この種の抵抗は、通常はその回答を受け入れ、別の質問をすることによって対応します。例えば、もし「それについて何も知らない」と面接相手から言われたら、このように対処してはいかがですか。
例:聴取者「分かりました。それではあなたの職務は何ですか?」
このように、面談相手が必ず答えられる質問に転換し、頃合いを見て抵抗された質問を再度投げ掛けます。
または、次のように対処することもできます。
例:聴取者「そうですか、それは私が知りたかったことのうちの一つです。ところで〜(関連質問)」「ところで〜」の続きは、必ず関連した質問を投げ掛けます。そうすることで、「何も知らない」の論理を一つずつ崩していくことができるのです。

●「覚えていない」
通常、この言葉は、抵抗の表現ではありません。どちらかというと「謙遜」「ためらい」「警戒」の表現でしょう。これに対する対応の一つは、面接相手が考え込んでしまっている間、同様に沈黙を続けるのです。この沈黙が破られた時には、より具体的な質問をすると良いでしょう。
例:聴取者「あなたが詳細を覚えていないというのでしたら、それで構いません。では、その時あなたがそれにどう反応したかは覚えていらっしゃいますか?」

●「どういう意味ですか」
面接相手がこのような質問をした場合、面接相手が注意を聴取者へ向けようとしているための軽い抵抗かもしれません。それは面接相手が考えるための時間を得ようとする姑息な手段かもしれません。通常こういった受け答えは、質問内容をきちんと説明すること
で克服できます。
例:聴取者(質問を繰り返す)「あなたにこの質問をするのは、あなたが会計ソフトへの入力を担当しているからです」いずれにしても、聴取者は守りの姿勢を示したり、面接相手を懐柔すべく自身を卑下したりすることは禁物です。面接相手につけ込む隙を与えることによって、かえって抵抗の度合いを増幅させてしまうからです。

事例研究
青森県住宅供給公社巨額横領事件(アニータ事件)

●事件の概要
この事件は平成13年に発覚した金額にして14億円を超える巨額横領事件です。職員であった犯人は、横領金をチリ人女性に貢ぎました。その女性とは後に結婚し、その女性の名前をとって俗に「アニータ事件」とも呼ばれています。
地方住宅供給公社法に基づいて設立された青森県住宅供給公社は、青森県および県内8市が出費する特殊法人です。理事長以下の法人役員は、出資自治体の現職幹部が充て職として連なり、法人の運営にはほとんど関与していませんでした。このため、法人の業務は実質的には県庁OBの常勤理事が執り行い、数年で次のOBと交代していました。犯人はプロパー職員として採用され、一貫して経理業務を担当し、事実上、法人の経理業務全般の実質的な権限が委ねられていました。一方で犯人は、出資自治体公務員の天下り先のポストでしかない幹部職に、自分は就けないという不満から、憂さ晴らしでキャバレーやスナック等で毎晩遊興するようになり、その費用を捻出するため公金を横領するようになりました。横領を隠ぺいするための手口は、経理データを改ざんして帳簿や預金残高の数字に合わせる等の工作を行いました。経理処理用PCにデータを入力後、「日次締切処理」をして総務部長の決裁を受けるところを、横領行為を隠ぺいするための偽装データの入力が終わるまでは、その日の「日次締切処理」を他の誰にもさせませんでした。その「日次締切処理」が、1ヶ月以上遅れることも度々で、自分が入力したデータを他の職員がチェックする「ダブルチェック」もさせませんでした。また、監事の行う内部監査も青森県による外部監査も形式的なもので、通帳残高や帳簿上の数字を証憑書類と照合して確認することはありませんでした。これらの要因で、不正が発覚することはなかったのです。

事例事件の考察

●抑止の環境整備
横領等の不正行為を抑止するためには、企業の理念を明確に示すことが極めて重要です。青森県住宅供給公社は、「住宅供給による住民生活の安定と社会福祉の増進」という専業目的を掲げていたようです。これは青森県住宅供給公社の理念に他なりません。しかしながら、このような高い理念を、犯人を含む役職員に浸透していたかどうかは大きな疑問です。
なぜなら、理事長以下経営陣のメンバーはすべて青森県他出資自治体出身者であり、しかも、ほとんどが天下りや数年で元の職場に戻れる、言わば「腰かけ」の人員だったからです。このような腰かけの経営陣に、高い理念を掲げてリーダーシップを発揮する役割を期待するのは無理でしょう。経営幹部が県庁等からの出向者で占められ、プロパー職員の就くポストを狭める、または無くすといった人事構造には、プロパー職員の意欲を削ぐ根本的な失陥があると言わざるを得ません。

●リスク管理
横領等の不正行為を抑止するためのリスク管理においては、定められたルールを無視した慣れ合いによる仕事の進め方や、上司・同僚から担当者に寄せられる個人的信頼、またはその業務に対する無関心といった、業務フロー上には見えてこない現場の実態を見落とさないことが重要です。なぜなら、不正行為者はこのような業務フローの間隙を突いて、横領等の不正を働くからです。当時も「日次締切処理」はその日中に総務部長の決裁を得る、入力したデータを他者が確認するという「ダブルチェック」も定められたルールとして存在していました。しかしながら、見てもわからないという知識不足の理由か、見るだけ面倒で時間の無駄という無責任な理由か、またはルールの遵守を指摘することで犯人の機嫌を損ねて返り討ちに遭いたくないという責任回避の理由、といった正当性を主張できない理由で、経理業務一筋の犯人に任せっきりにしていたのです。定められたルールが遵守されていなかったにも関わらず、それが問題視されることはありませんでした。まさにリスクを増大させる盲点が、到る所に放置されていたのです。このような状況から、そもそも不正行為抑止のためのリスク管理が行われておらず、不正リスクを抑止するための方策についても何ら検討されていなかったと推察します。

●抑止力
経理担当者は、毎日その日の経理データを経理処理用PC上の「仕訳日計表」に入力し、「日次締切処理」をすることになっていました。この「日次締切処理」は、その後に経理データを修正することが不可能なシステムだったそうです。したがって「日次締切処理」がきちんと守られていれば、横領を隠ぺいする時問的余裕が無くなるため、横領行為を制する効果があったのです。また、経理担当者が入力した経理データは、作成者以外の職員が入力データと証憑書類を照合するという「ダブルチェック」、すなわち二重に点検、確認することがルールとなっていました。犯人は経理データを改ざんしたものの、帳簿や預金残高までは偽造していませんでした。もし「ダブルチェック」がきちんと守られていれば、横領行為は容易に発見できたはずです。

●情報と伝達
横領等の不正行為を抑止ないしは早期発見するためには、不正行為に関する端緒情報を迅速に収集できる体制を整備することが必要です。もっとも、確信が無い中で「同僚が犯罪行為をしている」という通報は、二の足を踏みます。このため、会社としては匿名による通報を認めるといった、不正行為に関する情報提供がしやすくなる環境を整える必要があるのです。この事例でも、経理データの「日次締切処理」が1ヶ月以上も遅れるようになったことや、他の者は自分の仕事の領域に立ち入らせない、といった「ちょっとおかしいぞ」と思わせる兆候が認められます。
さらには、犯人が遊興に耽っていることは、些細な仕草で「金回りが良くなった」その片鱗を伺い知ることはできるのです。それが身の丈を超えた生活であれば、何らかの理由があるのは当然です。不正行為の兆候に関する情報はこの時でもあったと思いますが、犯人による横領を抑止・発見することに繋げる努力をし損じていたのです。いかに多くの端緒情報があったとしても、会社の側にその情報を吸い上げて不正抑止に役立てようという意思が無ければ、何の意味も成さないのです。

●モニタリング
横領等の不正行為を、隠ぺい工作によって完全に消し去ることは不可能なのです。経理データの取引履歴や証憑書類には、必ず不正行為の足跡が残っています。この不正行為の足跡を内部監査・外部監査によって発見することで、被害を最小化するとともにそれ以降の被害発生を抑止する効果があるのです。
青森県住宅供給公社の事例においても、帳簿や預金残高の偽造までは行っていなかったようで、内部監査・外部監査において証憑書類を確認すれば、不正は直ちに発覚していたのです。

●ITへの対応
お金を取り扱う業務フローをIT技術によって自動化することは、不正抑止にとって有効な施策となります。当時の青森県住宅供給公社においても、経理処理用PCを導入して「仕訳日計表」にデータを入力するとともに、「日次締切処理」後のデータ修正は不可能にするなど業務のIT化を進め、その抑止力は先に示した通りです。しかしながら、経理業務の権限を握る責任者自身がルールを遵守していなければ、どんなにIT化を進めようとも不正抑止の効果は失われてしまうのです。この事件の及ぼした影響この事例は被害総額が14億円を超えるという常人では考えられない巨額な点と、犯人が飲み屋で知り合ったチリ人女性へ貢ぐ金額が段々とエスカレートしていった点。そのチリ人妻が故国に帰ってからの豪奢な生活を、日本のワイドショーに話題提供した点でマスコミが大きく取り上げました。後日談として、犯人が懲役14年の刑を言い渡された刑事裁判とは別に、青森県住宅供給公社は、犯人に対して横領金の全額返還を求めて民事訴訟を起こしました。青森地裁は横領金全額の支払いを命じる判決を言い渡したものの、訴
訟費用などを差し引くと、実質で800万円余りを回収したに過ぎなかったようです。従業員を採用する際、よく保証人が求められます。この事例と同じく、その従業員が会社のお金を横領したとします。会社はその弁済を従業員本人だけでなく、保証人にも求めます。ただ、その被害額が事例の10分の1や20分の1の金額であったとしても、一般の人が弁済に充てられる金額はたかが知れています。このことから言えるのは、横領されて使われてしまったお金は、金額が多ければ多いほど、もう戻っては来ないのです。
青森県住宅供給公社は、その後平成21年に解散しました。発生した横領事件の被害額が常人の域を超える金額であれば、マスコミを通じて知れることとなり、傷ついた会社の信用に輪を掛けてその会社の資金繰りが詰まり、果たして代表者の資力まで減じさせることになるのです。最悪の場合、青森県住宅供給公社と同じ道を辿るのです。

終わりに

7回にわたり「中小企業の不正調査」を、できる限り実務に沿うかたちで話を進めてきました。ストラテジック・コンサルティングの「不正調査」サービスとは、クライアント企業の職場内に潜在して企業不正を引き起こす原因となっている「不正リスク」を抽出・発見し、企業不正の発生を未然に抑止する取組みをサポートするサービスです。また、万一、企業不正が発生した場合には、クライアント企業の経営に及ぼす影響を最小限に抑えるための対応策もサポートします。内部通報や監査によって不正リスクが顕在化したとき、調査や情報開示等の初動を誤ると組織は致命的なダメージを受けることになります。当社はクライアント企業の代表者やコンプライアンス担当責任者の管理のもと、迅速な調査と的確な報告レポートを提出し、結果分析と再発防止の提案をいたします。