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金融円滑化法とは何だったのか

2013/03/01

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「近代中小企業」2013/3月号に「事業再生のプロが見る金融円滑化法その後 第1回金融円滑化法とは何だったのか」と題して執筆しました。

「金融円滑化法」。
中小企業経営者の方なら一度は聞いたことのある法律名かと...。正式には「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」と言い、そこに謳われている「臨時措置」が示すとおり、終了期限のある法律(=時限立法)なのです。別名、支払猶予令を意味する「モラトリアム法」とも呼ばれています。この法律は本年の3月31日で終了しますが、適用を受けて日々再建に取り組んでいる企業は未だ40万社を数えます。弊社への相談も「この法律が終わってしまうと金融機関は、どのような態度に出てくるのか?」と、非常に不安な気持ちになっている経営者からのものが多いのです。そこで、今回から3回にわたって金融円滑化法の適用を受けている企業の経営者を対象に、プロの目から見た「金融円滑化法」の、その後を分析していきます。

金融円滑化法のおさらい

●概略
金融円滑化法は、平成21年11月30日に国会で可決・成立しました。当初は、平成23年3月31日までの時限立法でしたが、その後2回にわたる1年延長を経て、平成25年3月31日まで再延長されています。直近の延長時である平成24年3月31日の段階で、これ以上の延長はないと確認され、本年3月31日以降この法律に基づく条件変更等は受けられません。この法律は、中小企業や住宅ローンの金銭債務の支払いについて、返済困難な債務者が希望すれば一定期間猶予することを規定しています。対象となる金融機関は日本に本店を置く金融機関ですが、政府系金融機関と言われる住宅金融支援機構、日本政策金融公庫やノンバンクは対象に含まれていません。対象となる金融機関は、この法律に則って一定期間返済を猶予した顧客の件数や金額の実施状況を、定期的に金融庁へ報告しなければならないことになっています。この法律は、時の民主党政権下で金融担当大臣の任にあった政治家・亀井静香氏の肝いりで作られたものです。対象となる金融機関が過剰に反応したこともあり、施行当初はほぼ無条件で返済猶予等の条件変更がなされました。この金融機関の姿勢が今に至るこの法律の負の側面で、債務者のモラルハザード(=倫理観の欠如)を生み出したのも事実です。
平成23年3月の改正時に、金融機関が債務者に果たすべきより具体的な役割が明記されました。債務者のモラルハザードへの批判に対して、金融機関は最適なソリューション(=解決策)を提供することが謳われました。そこには、
①自助努力により経営改善が見込める先
②抜本的な事業再生や業態転換により生き残りを図る先
③事業の持続可能性が見込めず事実上の廃業などを進める先
と分類する方針が示されました。

●金融機関のメリット
金融円滑化法の施行にあたり、金融機関は監督官庁である金融庁の目を気にしていたのは事実ですが、何と言ってもこの法律の大きなポイントは、金融機関が金融円滑化法に基づく貸出条件の変更等を行っても「不良債権」にはならないことです。
詳しくは後述しますが、不良債権かどうか判断するため、金融機関は債務者を年に2回格付します。企業であれば決算書、自営業であれば確定申告書からの定量分析に始まり、経営者の人物面を点数化し、さらには経営者の個人資産・負債を企業の決算書に組み入れ、なお且つ現状の貸出の返済状況までモニタリングしてトータルで結果を出す作業のことを言います。
金融機関によってまちまちですが、債務者は10段階から20段階に区分け(格付)されます(図1の金融機関は12段階)。一方で金融機関は、金融庁から金融検査マニュアルに基づいて厳格な債務者区分をするよう求められています。
債務者区分とは図1のように、「正常先」「要注意先」「要管理先」「破綻懸念先」「実質破綻先」「破綻先」の6段階に債務者を区分することを言います。今では、各金融機関は金融機関独自の格付と債務者区分をきっちりとリンクさせています。
従来の金融検査マニュアルでは、返済猶予等の条件変更を行った貸出金は、要管理先として不良債権扱いにしなければなりませんでした。これが金融機関の不良債権比率を悪化させる要因ともなりました。
不良債権扱いにする上で金融機関の最大のデメリットは、その貸出額から所定の割合を貸倒引当金として積まなければならないことです。正確に言うなら、正常先でも所定の割合の引当金はありますが、貸出利率より低いのが通常で、金融機関にとって大したことはないのです。
ただ、要管理先となると引当率が20%程度となり、わが国には利息制限法もあって債務者に適用できる利率の上限があるため、貸出利率ではとても吸収できないのです。それが金融円滑化法によって、不良債権にならないとなると金融機関も大喜びなのです。

●金融円滑化法適用のための要件
通常、返済条件を緩和してもらいたい場合、債務者の資金繰りがひっ迫していることが条件となることが多いのですが、この法律でいえば黒字企業であっても、滞りなく返済を履行している債務者であっても、条件緩和を申請することは可能です。しかしながら、先に述べました平成23年3月の改正から、モラルハザードを防ぐべく次の要件が加わりました。「経営改善計画が1年以内に策定できる見込みがある場合」この文面をそのまま読むと1年以内に計画書を策定すれば良いと取れますが、「策定できる見込み」がポイントです。金融検査マニュアル中小企業融資編にその要件を次のように記載しています。「策定できる見込み」とは、銀行と債務者の間で合意には至っていないが、債務者の経営再建のための資源等(例えば、売却可能な資産、削減可能な経費、新商品の開発計画、販路拡大の見込み)が存在することを確認でき、かつ、債務者に経営再建計画を策定する意思がある場合をいいます。このいわゆる「見込み」は、経営再建できるという目に見える明確なものが無ければ要件を充たさないことがわかります。
「5年以内(最長10年以内)に経営再建が達成される経営改善計画がある場合」この要件を充たすためには実現可能性の高い抜本的な経営改善計画書(実抜計画)がきちんと策定されていることが大前提で、且つ策定後1~2年間は計画通りに達成、進捗していることが必要となってきます。
しかし、債務者が抱える経営課題は様々です。金融機関が自らのコンサルティング機能を積極的に発揮したとしても、債務者の抱える様々な課題の解決には相応の時間がかかることは、充分に認識されているところです。債務者が引き続き課題の解決に向けて努力していくことは重要ですが、返済条件緩和の満了日が個々の債務者でまちまちであるように、すべての債務者に対して本年3月末までに何らかの最終的な解決を求めるというものではないのです。裏を返せば最終的な解決を求める貸付先もあるということです。
平成23年4月に公表された金融監督指針では「事業の持続可能性が見込まれない債務者」の取扱が始めて示されました。つまり、金融円滑化法終了後に「何らかの最終的な解決」を求められる融資先も多く出てくるものと思われます。

●返済条件緩和先の現状
東京商工リサーチの調べでは、中小企業における返済猶予等の実施件数は、平成24年9月末時点で363万件に上ります。申込件数が390万件からして、実に対象金融機関の受諾割合は93%に上るのです。さらに、続く分析では中小企業者の8.2%が申し込んだ試算も記されています。全国の中小企業者数392万社の概ね40万社が申し込んだと思われます。帝国データバンクは、この制度を利用した企業を調査した結果を公表しています。それによると金利の減免まで金融機関が応諾した割合が14・1%に上るそうです。
返済元金ならまだしも、貸出金利すら払えないのは、この法律の終了後、不良債権へ一気に転落する予備軍と思われます。また調査結果には、半数の企業が返済条件緩和の応諾以外には、金融機関が特に支援を申し出たことはないと金融機関の面倒見の悪さを指摘しています。
関連して、この法律が終了すると金融機関の姿勢が厳しくなると答えているのも半数を超えています。金融機関にはこれまでと変わらない姿勢でと切実に要望している企業も4割を超え、金融円滑化法の終了に伴って金融環境は悪化すると答えた企業が数多くありました。
これらを裏付けるものとして、金融円滑化法に基づく返済条件緩和後に倒産に至った件数は、平成24年度が同23年度に比べ7割も増加していることが示されています。金融機関が来る者拒まずの姿勢でやみくもに返済条件緩和をし続けた結果、倒産を単に先送りしただけといえなくもないのです。
金融機関別 次の出方取引の金融機関がどう考えているのかは非常に気になるところです。まず、対象の金融機関の体力がどの程度なのか、不良債権比率を用いて見ていくことにします。不良債権比率とは、全貸出金額の中にどれだけ要管理債権、危険債権、破産更生債権が含まれているのかを割合で示したものです。これらに含まれない貸出金額は正常債権と呼ばれます。金融機関はこの数値は小さければ小さいほどいいので、債権を売却するなど金融機関本体から債権を切り離す方法(=償却)で不良債権額を減らすことはできます。
しかし、償却するには税金も掛かりますので、体力のある金融機関かどうかのバロメーターと見做されます。金融機関は年に2回、債務者区分と概ね合致する貸出金額の分類を行っています。それでは大手行の最近の数値を見ていくことにしましょう。

●大手行
図2からもわかるように、不良債権比率は横バイです。言い換えますと、大手行はこの比率をこれ以上大きくしたくないことを意味します。この法律が終了しますと、その後に返済条件変更の満了日を迎える貸出金は、元の返済条件(債務者が借りた当初の返済条件)に戻さない限り、不良債権として計上しなければならないのです。
不良債権比率の悪化、引当金計上による銀行収益の悪化を甘んじて受け入れる姿勢は、大手行は特に無いと認識すべきです。

●大手行の処理方法
それではどのような展開が待っているのかと言いますと、前記した金融機関が提供する最適なソリューションの中にある「③事業の持続可能性が見込めず事実上の廃業などを進める先」として冷徹に債務者を分別し、その貸出金を処理する方向に持っていくものと思われます。
具体的には、「信用保証協会保証付融資」は淡々と「代位弁済」で処理されると見ています。代位弁済とは、保証協会に債権を肩代わりしてもらうことです。保証付きでない融資を意味する「プロパー融資」は、債権管理回収業者であるサービサーに売却する方法が取られます。今までは、銀行から借りて銀行に返しているという形態が、保証協会やサービサーに返すという形態に替わるのです。ただ債権者が替わるだけとは言ってられない事情があります。債権が保証協会に移転しますと保証協会のブラックリストに載り、今後保証協会からまず借り入れすることはできないでしょう。さらには、決算書の借入先に保証協会と記されていれば、代位弁済が行われた以外の何物でもないので、よその銀行から新たに借り入れることがまずもって無理になります。同様に、借入先にサービサーが載っていれば、不良債権処理をされた先と見做されるのです。

●地方銀行
全国に地方銀行は105行あります。規模で言いますと大手行に匹敵する横浜銀行から、その60分の1の規模の佐賀共栄銀行まで多種多様です。
平成24年9月の不良債権比率でいえば、山形銀行、琉球銀行、沖縄銀行の1%台から佐賀共栄銀行の7・85%まで、先の大手行の各行差より大きいのがお分かりかと存じます。概して、規模の小さな地方銀行の不良債権比率が高くなっています。その理由として、不良債権を償却する体力すらも乏しい現状があるものと思います。
不良債権比率の高い地方銀行は、体力が乏しいが故に債務者の返済条件変更に応じていくものと考えます。一方、不良債権比率の低い地方銀行は、大手行と同じスタンスで不良債権化した貸出金を処理する方向に進むような気がします。
地方銀行は地域に密着していることを標榜していますが、ここで気になるのは先ほどの帝国データバンクの調査結果です。金融庁は、平成24年3月における返済猶予等の実施件数を大手行や地方銀行など、カテゴリー別に集計したものを公表しています。その表には、地方銀行が全体件数の約45%を占めているのです。帝国データバンクが調査した金融機関の面倒見の悪さを答えた企業の約半数は、地方銀行のことを指しているのではないでしょうか。